利用ユーザーの業種・業態やその利用目的ごとに、製品やサービスを厳選して比較する【コスト削減のヒカク】。今回は、テレワークの浸透など働き方の多様化で、より一層市場の充実が見込まれる「バーチャルオフィス」をテーマに取り上げてみたいと思います。
製品やサービスの導入を決める時には、相当慎重に検討を重ねると思います。導入に失敗すると、想定外の問題が発生したり、様々な対応に時間がとられ、コア事業に割くべき時間の多くが無駄になってしまうからです。バーチャルオフィスにおいても同様です。
今回、この【コスト削減のヒカク】では、バーチャルオフィス選びを失敗しないために、まずバーチャルオフィスとは何かということからご説明いたします。そしてバーチャルオフィスで提供されるオプションサービスについて、その選び方などを紹介します。最後に、利用者の目的ごとに理想的なサービスを提供するバーチャルオフィスの紹介も行いますので、参考にしてください。
バーチャルオフィスとは?
そもそも、バーチャルオフィスとは、どういったものでしょう。聞き慣れない方も多いかもしれません。バーチャルとあるので、VR(バーチャル・リアリティ)の技術を使った何かのオフィスと思われるでしょうか。
実際、コロナ禍でのテレワークの浸透に伴い、仮想空間に疑似オフィスを作ってそこに社員を参加させるというコミュニケーションツールが最近のIT関連ニュースをにぎわせております。それらも一部「バーチャルオフィス」を標榜してはおりますが、この特集ページで取り上げるのは、それ以前より存在している、よりリアルなバーチャルオフィスです。
つまり、現実のオフィス空間を持たない、ビジネス向けの「住所貸し専用サービス」のことです。わかりやすく例えると、民間企業が提供する私書箱サービスのようなものでしょうか。(郵便局も民間企業ですが)
法人登記に必要な所在地や会社案内・名刺など販促物に記載する、ビジネス専用の住所を比較的簡単に安価で貸与してくれます。特に、起業を予定している方や副業での住所登録が必要な方、企業の営業所の開設を急いでおられる方などにはお薦めのサービスです。
テレワーク環境が普及したオフィス業界では一種のトレンドとなっているのでしょう。十数年前に比べると、多くの企業がこの市場に参入を急いでいるようにも見えます。もともとレンタルオフィスやシェアオフィスに力を入れていた企業がバーチャルオフィス事業の比重を増やしたり、異業種(IT系の企業等も…)から新規参入するケースも見られます。
そして、その勢いはここ数年衰えを知らないようでもあります。それは新型コロナの影響で多くの企業がテレワーク導入を一気に進め、“テレワークありき” のビジネススタイルが市民権を得たことも、その背景にあるかもしれません。業種・業態によっては、瀕死の状態にまで追い込まれたところもあったにも関わらず、バーチャルオフィスはその勢いを失っておりません。
(参考:株式会社アイ・ティ・アール 国内のバーチャルオフィス市場規模推移および予測)
バーチャルオフィス利用の大前提
市場規模が拡大し、質の高いサービスが安定的に供給されているバーチャルオフィス。オプションが豊富で手厚いサービスを受けられるにも関わらず、低価格を実現しているバーチャルオフィスがいくつも存在しております。そのように “買い手市場” となって久しいこの業界ですが、いくつか押さえておくべき注意点があります。その代表的なものをご紹介しておきます。
バーチャルでない作業空間が別途必要
まず、言うまでもありませんが、バーチャルオフィスでは作業ができません。コワーキングスペースや会議室が併設されていれば、契約した住所での作業も可能でしょうが、そうでなければ、作業場所や打ち合わせの場所を別途確保する必要があります。
ご自宅などネット環境が整った場所で、ご自身のPCを使い、長時間の作業を行えるようにしなくてはなりません。事務や制作業務などに携わっている方は当然ですが、営業や販売業務など出張の多い方も同じように「バーチャルでない作業空間」を確保する必要があります。
その住所は “借りている住所”
繰り返しになりますが、バーチャルオフィスは「住所を借りるサービス」です。住所を借りるということは、いつか返す必要があるということです。ご自身で契約を終わらせて返却する場合は問題も少ないでしょうが、運営会社が倒産したり、移転せざるを得なくなると、十分な準備をすることなく、借りていた住所が利用できなくなります。法人で利用されていた場合、登記情報や銀行口座、ホームページ、販促物等の所在地情報の変更など、想定以上の対応が発生することになります。
ですので、契約前にはバーチャルオフィスを運営する会社の経営状態や実績を入念にチェックしてください。もともと不動産業であったり、長年レンタルオフィスを運営していたり、拠点の多いサービスなどを選択すれば安心でしょう。それでも、移転を余儀なくされることもありますので、可能であれば、そうなった時にどういう対応をしてもらえるか、契約前に確認しておくのも良いかもしれません。
コスト(月額費用)がリーズナブルである点や豊富なオプションサービスばかりが強調され、注意すべき点が目に入りにくいバーチャルオフィスです。最低限上記の2点は「要注意事項」として押さえておいてください。
会社の未来を左右するオプションサービス!?
バーチャルオフィスのオプションサービス選びは拠点選びと同じくらい重要です。ご自身のビジネススタイルや将来のビジョンにあったオプションを選択できるか否かで、ビジネスの成功が大きく左右される可能性があるのです。どのバーチャルオフィスもオプションサービスの充実に力を入れていることからも納得jいただけるでしょう。
郵便物や配達物の受取と転送
郵便物や配達物の受取は、多くのバーチャルオフィスで基本プランに含まれているものです。ただし、受付のない無人のオフィスだと、書留や宅配便が受け取れないのでご注意ください。受付があっても「現金書留」「内容証明郵便」「代金引換の宅配便」等は受け取れません。その場合は、不在票を預かってもらいご自身で受け取り対応を行う必要があります。どの郵便物・配達物が受け取れるのか契約前にしっかりご確認ください。
そして、届いた郵便物や配達物の転送に関しては、転送する頻度や通知方法によって、プランやオプションが異なります。転送回数が月にどれくらいあるかは、しばらく運用してみないと把握できないでしょうから、最初は少し多めの転送回数のプランにしておいて、把握できた時点で調整すれば良いかもしれません。
固定電話サービス(転送・クラウドPBX)
法人利用の場合だと、住所と同じくらい重要なものが「電話番号」でしょう。契約住所の市外局番の電話番号は必須のはずです。会社の信用にも関わるからです。ただ、残念なことにバーチャルオフィスにおける固定電話サービス事情は複雑です。総務省の「電気通信事業法の改正※」により、地域性のある市外局番の電話番号を提供するためには様々な条件を満たすことが必須となります。
これまで転送電話サービスの提供が主流だったバーチャルオフィスですが、最近はソフトフォンなどのクラウドPBXを利用する外部の電話サービスを提供するところも少なくありません。当然様々な条件を満たす必要がありますが、比較的安価に受発信番号を市外局番にしたり、フリーダイヤル番号の契約も可能なので、若干敷居の低いものとなっております。
ちなみに、契約したバーチャルオフィスでしか利用できない転送電話だと、解約時に電話番号も変更しなくてはなりません。しかし、クラウドPBXだと、(条件次第ですが)移転時にも電話番号を変更する必要がありません。それだけでなく、着信時にも転送料金がかからないので、コスト面でのメリットがあります。
一度申し込むとなかなか変更できない電話サービスですので、契約の際はどうか慎重にご検討ください。
創業支援・経営支援
バーチャルオフィスの利用者には起業を控えている方や、起業したばかりの経営者も少なくありません。そのため、創業支援・経営支援に力を入れている運営会社も豊富です。起業相談、登記代行、融資・助成金等申請、銀行口座開設、記帳代行、各種士業紹介など、それだけでサービスがなりたつのではないかと思えるほどの充実ぶりです。特に起業から日が浅い方にとっては、支援してくれる心強いパートナーが身近にいるだけでも安心でしょう。大切な期間に本来の仕事に没頭できるか否かは、会社の未来を左右することかもしれません。ただ、こちらもバーチャルオフィスのオプションサービスに限る必要はなく、外部の支援専門サービスでもかまいません。
交流会・各種イベント開催
異業種交流会や様々なビジネスイベントに参加する機会は、上記の支援サービス同様、専門のサービスを利用することが可能です。ただし、バーチャルオフィスのオプションで提供されている交流会や各種イベントへの参加は、自分と同じバーチャルオフィスを契約している利用者に限定されることも多いため、共通の話題もあり、親近感は増すでしょう。併設されたコワーキングスペースやレンタルオフィスサービスを利用している方が参加している場合においては、近い将来プランアップを行う際の貴重な情報を得ることもできます。
ホームページ作成・販促物作成
起業時になるべく早く準備しておく必要があるのはホームページや販促物です。そのため、バーチャルオフィスでも起業者向けのサービスとして提供しているところも少なくありません。身近で気軽に頼めるだけでなくリーズナブルなところも多いので、つい何も考えずに利用しがちですが、1点だけご注意ください。バーチャルオフィスを解約すると、ホームページが閲覧できなくなったり、販促物の追加発注ができなくなるサービスもあります。もし、将来的に別のオフィスへの移転を想定されている場合は、専門の制作会社に依頼した方が無難です。
レンタルオフィス(個室~少人数利用)
事業が軌道に乗り始めると、メンバー全員にテレワークをお願いすることが難しくなることもあるでしょう。仕事とプライベートを切り離したいとか、仕事にメリハリをつけたいという要望が出てくるだけでなく、直接会って打ち合わせを行う必要がでてくるかもしれません。そういった場合は、レンタルオフィスサービスへの乗り換えを検討してみてはいかがでしょう。同じ店舗内に個室または少人数用のオフィスが併設されていれば、住所や電話番号を変更せずに、移行が可能です。
ただし、個室タイプのオフィスはどこもすぐに埋まってしまうので、空いたら移行できるように前もって予約しておくのが良さそうです。
ユースケース別 オススメ バーチャルオフィス
最後に、バーチャルオフィスの利用を考えている方に、ユースケースごとのオススメサービスをご紹介いたします。ただし、今までに当サイトでご紹介したバーチャルオフィスサービスに限らせていただきます。ご了承ください。どういったプランやオプションが、どのユースケースにマッチするのかを、大まかに掴んでいただければ幸いです。
副業でネット販売。特定商取引法の表記に自宅以外の住所が必要
月々の料金がリーズナブルであることは重要です。ただし、上記にも記載した通り運営会社の安定性やその店舗の住所のブランド力などを見極めてのプランの選択が前提です。郵便転送、電話転送は必要最低限のプランで充分です。
近々起業を考えている、または起業して間もない
顧客やチームメンバーとの打ち合わせが頻繁に発生する場合、会議室が併設されているオフィスを選択する方が無難かもしれません。もちろん、外部に専門の会議室サービスはあるので、そちらを利用しても良いのですが、どうしても、自社オフィス(バーチャルオフィスですが)での打ち合わせが必要となるケースもあるでしょう。
さらに、創業支援や経営支援を利用されることをお勧めします。こちらも外部に専門の支援サービスがありますので、双方をしっかりと比較・検討して決定してください。
一人で会社を経営している経営者
まずは、上記でご紹介したオプションがすべて揃っているようなバーチャルオフィスをオススメします。事業をさらにステップアップさせられる実績や人脈なども揃ってきているでしょうから、何かもう一押ししてくれるものがあれば、更なる飛躍を期待できます。その機会をいつでも手に入れられる環境を整えておくに越したことはありません。
さて、特集【コスト削減のヒカク】の第1回「バーチャルオフィス比較」はいかがでしたでしょうか?コロナ禍の影響で、様々な業界でテレワークが一気に進み、バーチャルオフィスの市場拡大は続いております。現に様々な会社が次々と参入して、各社のサービスの質も日を追うごとに上がっているように思われます。
バーチャルオフィスを検討している方には、ある意味チャンスですが、選択の余地が多い分ミスマッチする可能性も高まります。バーチャルオフィス選びは、スモールスタートを切る事業主にとって、最初の大切な第一歩です。その一歩目をしっかりと力強く踏み出せるよう、この特集記事を参考にしていただければ幸いです。